会社員と家業のパラレルキャリアを歩む加藤寿一さん

【オモシゴ!】
様々な視点や発想でイキイキと仕事に取り組む”オモロイ”企業や人をご紹介します。

システムエンジニアとして働きながら、家業である着物業界の再興を目指す

現在、加藤さんはシステム会社に勤める会社員。仕事はダムの放水や高速道路の照明など社会インフラを制御するシステムの構築を行うシステムエンジニアだ。各プロジェクトのマネジメントを担当している。

加藤さん「学生時代は英語をやっていて、同時通訳になりたいと思っていました。大学で同時通訳コースがあり勉強していましたが、周りは猛者ばかりでした。」

外国語大学で英語を学び同時通訳を目指すも、周りにいる優秀な者たちと競っても勝てないと感じ、進路を変更した。当時はこれから技術系の仕事のニーズが高まってくるという流れもあり、エンジニアとしてシステム開発会社に入社した。

現在もシステムエンジニアとして海外の地下鉄制御システムプロジェクトを担当している。

加藤寿一さん、着物業界の再興を目指す。

そして加藤さんにはもう一つの取り組みがある。
実家は着物の悉皆屋(しっかいや)。悉皆屋というのは、小売から着物を預かり、着物の色を変えたいなど、ユーザーの希望を聞いて職人に生地をおろし加工する仕事だ。

加藤さん「着物の生地を使って商品を作り販売するという試みを去年やってみました。反物を(実家から)もらって、こういう風にすればいいのではないかと家族で取り組んでいます。」

会社員として週40時間働きながら、家族で千寿香(CHIZUKA)というブランドを立ち上げ、着物生地を使った雑貨商品づくりに取り組んでいる。

千寿香(CHIZUKA)ロゴマーク

人生の転機となる出来事

加藤さんは2013年に奥さんを亡くした。亡くなる前の3ヶ月、会社を休職し付きっきりで看病をしていた。仕事に復帰した際、社内での自分の居場所に違和感を感じたと言う。自分がいなくても会社は機能して仕事が回っている。

自分は会社に必要な人間だと自負していた分ショックがあった。奥さんを亡くし目標を失っていたこともあり、落ち込む日々が続いた。

ちょうどその頃、前のめりに目標に取り組む人が集まる場所(ビジネススクール)があると友人から聞き入学した。

そこで家業の経営に取り組むという目標をあらためて設定する。

加藤さん「大学院にて自身の「志」は何か?という自問を繰り返すうちに、実家が着物屋で、そこの経営をするチャンスがある。今まで(いろいろと)させてもらった家族に恩返しをしたい、着物業界をなんとかしたいと思いました

いちど目標を失いはしたが、仕事への取り組み方や生き方を考える機会を得た。いつも身近であった家族への恩返しが目標となり、家業の着物業界をなんとかしたいという想いへつながる。

加藤さん「それから家業の着物のことを考えるようになりました。それまでは、今の会社で定年まで勤めあげると思っていました。子供の頃から家業を側で見てましたが、自分事として意識することはありませんでした

実家は着物の悉皆屋を営んでいる。

会社員として今の仕事にやりがいがないわけではなく、一生続けても嫌な仕事ではないと言う。しかしそれ以上に家族に対する想いが強い。

加藤さん「着物をずっと親父がやっていた、その上に爺ちゃんがやっていた。次は私!おそらくそれが私のルーツなんです。自分ができることってなんだろうと考えて、昔忙しく、親父がイキイキと働いていた、それをもう一度体感させてあげたいんです」

着物業界は現在も斜陽産業である。しかし家業に取り組みたいと父親に伝えたとき、複雑な心境ながらも少し嬉しそうな顔を見せた。

実家の入り口には歴史を感じさせる看板が掲げられている。

目標が明確になればやるべきことがはっきりする

平日は会社員、土日と平日夜は着物のことにエネルギーを注ぐ。限られた時間の中で、着物に関することに思いを巡らす割合が増えている。二足のわらじで家業を支える自分に何ができるのか、たくさんの人に相談した。

加藤さん「様々な人に相談した結果、週末起業ということから始めました。社会に対して貢献したいと強く思っていても、現実には食べていかなければならない。生活の基盤がなければ好きなことができないのではないかと思ったからです」

会社を辞めて家業の着物事業に100%打ち込もうという考えもあったが、会社員をしながらでも、家業をすることは可能であり、両立することで相乗効果もある。もちろん会社員としての仕事に手は抜かない。会社に対してきちっと利益を提供していく。

特別な加工を施した着物の生地で折られたツル。

会社員と家業。複数の仕事に関わることで不都合が起こることはないのか?加藤さんが工夫していることは徹底した無駄の排除だ。

加藤さん「本当に、作業の効率化を徹底的に考えて、これは人に話す必要がある、話さなくていい。この仕事はこの人にお願いすればいい等、全体最適のため時間効率を意識するようになりました。そしてお願いした人が気持ちよく働いてくれる状態になればいい。スキルの高い人がいれば、その人にしっかりと働いてもらえる環境を作るよう務めています」

自分や他人の時間を作るために、自分がやらなくていい仕事、他の人が得意な仕事はその人に任せるようになった。結果、会社の売り上げにも大きく貢献し、顧客や従業員にもいい影響が出ている。

いまは着物業界をなんとかしたいという想いで活動する。目標は家業が盛り上がること。業界が盛り上がり、そして伝統産業に携わる人がハッピーになることだ。まだまだ失敗も多いが楽しんでいる。できるわけがないと批判的な人もいるが、批判に耐えられるメンタリティができたのも成長の証。

最後に一言。どういう形になるかわからないが、失敗し転んでも起き続けてやっていきたいと、加藤さんは充実した顔をみせてくれた。

加藤寿一氏 プロフィール

加藤 寿一(カトウ ジュイチ)

1969年京都市伏見区生まれ
京都の呉服問屋の長男として生まれる。

京都外国語大学外国語学部英米後学科卒業
在学中にセントラル・ワシントン大学に短期留学

株式会社CSK(現SCSK)に入社
金融システム部門にて大規模システム開発プロジェクトに従事

退職後、単身アメリカ海外留学も検討したが現日本ソフトウェア株式会社に入社
駅務システム・入退室管理システム、非接触カード通信
画像処理システム、FAセンサ処理装置開発。
高速道路、ダム、電力システム分野など
幅広くシステム開発に従事している。

2017年グロービス経営大学院卒業 MBA取得

(文:ムラナカトクシ
(掲載日:2018年3月26日)